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千葉地方裁判所 平成10年(行ウ)36号 判決

原告・選定当事者 石藏保夫

原告・選定当事者 信太忠二

原告・選定当事者 三田村元孝

(選定者は別紙選定者目録記載のとおり)

被告 坂巻重男

被告 高野晴夫

被告 永井康雄

被告 小橋迪夫

被告 池田昌

被告 佐藤勝次郎

被告 末永康文

右被告ら訴訟代理人弁護士 児玉隆晴

主文

一  被告坂巻重男に対する本件訴えを却下する。

二  原告らのその余の被告に対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告坂巻重男及び被告高野晴夫は、柏市に対し、各自、三一八万六七二〇円及びこれに対する平成一〇年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告永井康雄、被告小橋迪夫、被告池田昌、被告佐藤勝次郎及び被告末永康文は、柏市に対し、各自、五三万一一二〇円及びこれに対する被告永井康雄、被告小橋迪夫、被告池田昌及び被告末永康文については平成一〇年六月二七日から、被告佐藤勝次郎については同年七月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、千葉県柏市の住民である選定者らが、平成九年一〇月に柏市、流山市、松戸市、野田市、我孫子市及び鎌ヶ谷市のいわゆる東葛六市の市議会議員や市議会事務局職員が参加し、東葛都市議会連絡協議会の主催により実施された海外研修視察について、右研修視察の実質は慰安・観光旅行であり、千葉県柏市が右旅行に参加した同市議会議員や同市議会事務局職員の旅行費用を支出したことは違法な公金の支出であるなどと主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、柏市に代位して、右海外研修視察が実施された当時の同市議会議長及び同市議会事務局長に対し、不法行為に基づく損害賠償として、同市の支出した全旅行費用相当額及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めるとともに、右海外研修視察に参加した同市議会議員に対し、不当利得に基づく返還請求として、それぞれ一人分の旅行費用相当額及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めた住民訴訟である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告らを含む選定者ら(以下「原告ら」という。)は、千葉県柏市(以下、単に「市」ともいう。)の住民である。

(二) 被告坂巻重男(以下「被告坂巻」という。)は、東葛都市議会連絡協議会(以下「六市協議会」という。)の主催による平成九年度海外研修視察(以下「本件海外研修視察」という。)が実施された当時、市議会議長であった。

(三) 被告高野晴夫(以下「被告高野」という。)は、本件海外研修視察が実施された当時、市議会事務局長であった。

(四) 被告永井康雄、被告小橋迪夫、被告池田昌、被告佐藤勝次郎及び被告末永康文は、いずれも本件海外研修視察が実施された当時、市議会議員であった。

2  本件海外研修視察の実施

六市協議会は、柏市、松戸市、野田市、流山市、我孫子市及び鎌ヶ谷市のいわゆる東葛六市(以下、右六市を単に「六市」という。)が、東葛飾地域における地域開発、広域行政、関連事業等に関する共通の事項について相互に意見を交換し、関係各市の理解を深めるとともに、親睦を図ることを目的とし、六市の議長及び副議長で組織される団体であるところ、六市協議会は、その事業として、毎年一〇月ころ、六市の市議会議員の海外研修視察旅行を行っており(その運営は輪番制による当番市の議長が当たる。)、本件海外研修視察は、鎌ヶ谷市が当番市となり、六市の市議会議員及び議会事務局職員四〇人が参加して、平成九年一〇月一日から同月九日まで、オーストリア及びフランスの二か国を視察する八泊九日(ウィーン五泊、パリ二泊、機内一泊)の日程で実施された。視察先等の日程の詳細は別紙「東葛都市議会連絡協議会欧州視察予定日程表」のとおりである。

3  本件海外研修視察費用の支出

本件海外研修視察には、柏市から、被告永井康雄、被告小橋迪夫、被告池田昌、被告佐藤勝次郎及び被告末永康文の五名の市議会議員が参加し(以下、右五名の参加議員を「被告参加議員」という。)、市議会事務局長である被告高野が随行した。

柏市は、六市協議会の当番である鎌ヶ谷市議会議長に対し、平成九年八月一五日、平成九年度一般会計予算の議会費のうちの「負担金、補助金及び交付金」から、被告参加議員五名及び市議会事務局長(被告高野)一名の研修参加負担金として、一人当たり四二万三〇〇〇円の合計二五三万八〇〇〇円(以下「本件負担金」という。)を支払った。なお、右負担金の内訳は、研修費が四〇万八〇〇〇円、研修諸雑費が一万五〇〇〇円であり、右研修費の内訳は往復の国際航空運賃(団体運賃適用)、各国国内経費(ヨーロッパ内交通費、宿泊費、食費、視察費用)、渡航諸経費である(甲七の3ないし6、三〇の1ないし3)。

また、被告参加議員及び被告高野は、平成九年九月二六日、柏市から、旅費として各一〇万八一二〇円(日当六万五〇〇〇円及び支度料四万三一二〇円)の合計六四万八七二〇円(以下「本件旅費」という。)の概算払(前払)を受け、同年一〇月一四日、右概算払の精算手続きをした(甲七の7ないし13)。

本件負担金の支出負担行為は被告高野が、支出命令は市議会事務局庶務課長が、それぞれ専決し、支出は収入役が出納決裁している(甲七の3、4、弁論の全趣旨)。また、本件旅費の支出負担行為及び支出命令については市議会事務局庶務課長が専決している(甲七の7、13、弁論の全趣旨)。

4  監査請求

原告らは、平成一〇年三月二三日、市監査委員に対し、本件海外研修視察を公費で賄うことは違法、不当であるとして、市議会議長、本件海外研修視察に参加した市議会議員及び市議会事務局長に対し、本件負担金及び本件旅費の返還を求める住民監査請求を行ったが、市監査委員は同年五月二〇日付けで、右監査請求のうち市議会議長及び参加市議会議員に対する請求を却下し、市議会事務局長に対する請求を棄却した。

二  本案前の主張(被告坂巻が地方自治法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当するか否か)

1  被告坂巻の主張

地方自治法(以下、単に「法」という。)二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは、財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされているもの及びその者から権限の委任を受けるなどして、右権限を有するに至った者をいうところ、普通地方公共団体の議長については、法律上、予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務を行う権限を有しておらず、平成九年当時市議会議長であった被告坂巻も、本件海外視察研修に関する公金の支出について何ら権限を有していなかったのであるから、同条の「当該職員」には該当しない(なお、被告坂巻は、平成九年九月から市議会議長に就任したものであり、本件負担金の支出手続がなされた同年八月当時は市議会議長ではなかった。)。

したがって、被告坂巻に対する訴えは、法によって提起することが認められた住民訴訟の類型に該当しない不適法なものである。

2  原告らの主張

市議会議長は、議会の事務を統理し、議会事務局の職員に対する指揮監督権を有しているところ、被告坂巻は、市議会議長として、本件海外研修視察の諸経費を予算化し、当番市(本件では鎌ヶ谷市)が提案した実施要領を承認・決定し、その旨を常任委員会や党派代表者会議に報告して承認を得、当番市の議長から請求のあった本件海外研修視察の諸経費を負担金として送金させるなど、本件海外研修視察の実施や諸経費の支出事務に大きな役割を果たしているのであるから、本件において、被告坂巻は、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するというべきである。

三  本案の争点及びこれに関する当事者の主張

本案の争点は、本件負担金及び本件旅費の支出が違法なものとして不法行為及び不当利得を構成するか否かであり、具体的には、<1>本件海外研修視察が実質的に慰安・観光旅行であるか否か、<2>本件負担金の支出手続が違法であるか否か、<3>本件旅費の支出手続が違法であるか否か、<4>本件負担金及び本件旅費の支出による日当の二重払の有無であるが、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(原告らの主張)

1 本件海外視察研修の違法性について(争点<1>)

六市協議会の海外研修視察は、昭和六一年度から中華人民共和国の主要都市を中心に行われ、平成四年度からはヨーロッパ方面の視察が行われているところ、右海外研修視察は、毎年九月の議会会期が終了した一〇月初旬に、八泊九日、一人当たり五〇万円程度で行われる恒例の事業であり、各市議会はもちろん、参加議員も、本件海外研修視察の日程を含め、その内容については一切検討をしていない。

本件海外研修視察についても、その目的は、福祉行政、環境行政を中心に、先進都市の行政機構、施策を調査研究することとされているが、その日程において研修目的に合致するものは、一〇月二日午前のウィーン市役所表敬訪問、同日午後のオーストリア・リサイクリング社表敬訪問、翌三日午前の福祉・医療施設表敬訪問、同月七日午前の福祉施設表敬訪問の合計二日にすぎない。他方で、同月三日の午後及び同月四日午前は自主研修、同日午後は自然環境保護状況視察、同月五日は全一日ウィーン市内視察(歴史建造物保存状況視察)、同月六日は移動日であるが一日パリ市内視察(道路整備状況・街区整備状況視察)、同月七日午後は自主研修、同月八日(帰国日)は一日パリ市内視察(歴史建造物保存状況視察)などであるが、右合計五日分の実質は慰安・観光旅行である。すなわち、自主研修とは、一般の団体旅行やパック旅行でいうところのフリータイム、つまりオプション部分であり、また、自然環境保護状況視察、歴史建造物保存状況視察、道路整備状況・街区整備状況視察等は前記調査研究ではなく、単なる観光であり、ウィーンでは観光スポットであるウィーンの森、リヒテンシュタイン城、ベルベデーレ宮殿、シェーンブルン宮殿等の見学をし、パリではベルサイユ宮殿やノートルダム大聖堂等の見学をするなど、日本人観光客なら誰でも行く観光スポットを巡ったものであって、到底公式の視察などといえるものではない。

このように、本件海外研修視察は、公式行事が全体の三割未満であるのに対し観光が七割以上であり、全体としてみれば実質的に慰安・観光旅行であるから、このような本件海外研修視察に本件負担金及び本件旅費を支出することは違法である。

2 本件負担金の支出手続の違法性について(争点<2>)

(一) 本件海外研修視察は六市協議会の事業として行われたものであるところ、任意団体である六市協議会には市議会議員の海外研修視察の企画立案をする権限はなく、また、その構成員である市議会議長にも公金の出納や予算編成等に関する権限はないにもかかわらず、柏市議長である被告坂巻は、前任者である山中一男とともに、市議会議長の権限を濫用・逸脱して、六市協議会の当番市議長の企画、立案したとおりに本件海外研修視察の内容等を決定し、また、六市協議会の決定した本件負担金を、市の一般会計予算に本件海外研修視察の費用として盛り込むことを取り決めるなどしており、このような六市協議会の決定に従ってなされた本件負担金の支出は違法である。

(二) 本件負担金の実質は費用弁償であるから、予算編成の際、旅費として予算化し、被告参加議員に支払われるべきであったにもかかわらず、一般会計予算の議会費のうち第一九節の細節一の「負担金、補助金及び交付金」に予算化し、任意団体である六市協議会に支出することは、旅費関係の諸法令を潜脱するもので、違法である。

3 本件旅費の支出手続の違法性について(争点<3>)

(一) 公務による出張に対し旅費が支給されるためには出張命令権者の発する出張命令が必要であるところ、被告参加議員が本件海外研修視察に参加するに当たっては、出張命令権者である市議会議長の出張命令がなかったから、本件旅費はその支出の前提を欠き、違法である。

(二) 柏市職員旅費支給規程は、研修等の目的のための出張をする場合において五日を超えた日以後の日当は定額の一〇分の二に相当する額を定額から減じた額を支給する旨を規定し(同規程九条二項)、また、上級職員に随行した場合の旅費は、当該上級職員の旅費と同額とすると規定しているところ(同規程一二条二項三号)、本件旅費の支出に当たり五日を超えた部分の減額はされていないし、また、右上級職員とは、公務員の職務上又は身分上の監督権を有する上級者をいうと解すべきであり、非常勤の特別公務員である被告参加議員は右上級職員には該当しないにもかかわらず、本件旅費の支出に当たり、被告高野に対し被告参加議員と同額の支度料と日当を支給しているから、本件旅費の支出は柏市職員旅費支給規程に違反し、違法である。

4 日当の二重払について(争点<4>)

柏市旅費支給規程は、市の経費以外の経費から旅費に相当する額が支給される場合には、それに相当する額は旅費から支給しない旨規定しているところ(同規程一二条一項五号)、本件旅費に含まれる日当は、旅行中の日数に応じ、一日当たりの定額により支給され、旅行中の昼食費及びこれに伴う諸雑費並びに目的地内を巡回する場合の交通費等を賄うために支給されたものであると解すべきであるから、視察先の各国内における交通費や食費等が含まれる本件負担金を支出することは、日当を二重に支払うことになり、かかる二重払は違法である。

5 被告坂巻及び被告高野の責任及び損害

(一) 被告坂巻は市議会議長であるが、任意団体である六市協議会の構成員として、違法な本件海外研修視察の決定に参画し、かつ、市議会議長の権限を濫用・逸脱して、柏市議会においてこれへの参加決定を行い、被告参加議員らを選考し、市議会事務局長をして本件海外研修視察の経費を本件負担金として出金させ、六市協議会の当番市議長への送金を命じるなどし、これにより市の財政に損害を与えた。

(二) 被告高野は、市議会事務局長として、市議会議長の命を受けて、法令等に基づく適正な支出手続を踏まず、本件海外研修視察の参加経費である本件負担金及び本件旅費を支払い、又は柏市の財務会計担当職員らをして、六市協議会の当番である鎌ヶ谷市議会議長宛に本件負担金を出金、送金させ、これにより市の財政に損害を与えた。

(三) したがって、被告坂巻及び被告高野は、各自、本件負担金及び本件旅費の相当額の損害三一八万六七二〇円を賠償する責任がある。

6 被告参加議員の不当利得

被告参加議員は、いずれも市議会議員として本件海外研修視察に参加した者であるところ、前記のとおり、本件負担金及び本件旅費の支出は違法であるから、それぞれ本件負担金及び本件旅費のうち一人当たりの本件海外研修視察の経費である五三万一一二〇円を不当利得として柏市に返還する義務がある。

(被告らの主張)

1 本件海外研修視察の適法性について(争点<1>)

地方公共団体の議員が、国際化の進んでいる状況下において、諸外国の経済、社会、文化などの諸事情を視察し、議員としての見識や教養を高め、また、視察地を共同で調査、研修し、その国の歴史、文化などの事情を勘案しながら日本のそれと比較検討して地方議会の活動に反映させることは有意義であり、地方公共団体の議会が所属議員をその目的に沿って海外研修視察に参加させることには法的に何ら疑義の存在しないところである。

ところで、本件海外研修視察の主目的は、福祉行政、環境行政の先進的施策又は施設とするもので、その日程は別紙のとおりであるが、右日程を決定するについては、当番である鎌ヶ谷市議会議長が、旅行業者とも協議しながら、訪問先のウィーン市当局、ごみ処理場、医療センター、リサイクリング社、フランスのマルネ市立老人ホームなどと接触を持ち、訪問日時の調整を図り、また、ガイドの選任にも、環境、福祉の知識やその国、地方の事情、国民の生活習慣、政治経済の動向、文化などについて説明できる者を選任するよう注文をつけたり、事前に各市議会から提出された質問事項をとりまとめて訪問先機関へ送付したりして事前の準備を行っており、旅行業者に計画の立案をすべて任せたものではない。また、飛行機内や移動日を除き、日程のほとんどは視察、情報交換、訪問、自主研修、レポート作成、資料整理に充てられていたほか、柏市議会議員は、第四日目の早朝、地下鉄に乗り自由市場に出向いて市場の状況を見学したりもした。さらに、訪問都市の官公庁などの公的機関を訪問し、担当者から事情の説明を受けたり、施設内を見学したりすることが、海外研修視察の重要な内容であることは当然であるが、その国の歴史、文化、市民生活等に直接触れることは、主たる視察目的である環境行政、保健行政、保健福祉行政が生み出された背景を理解する上で重要なことであり、研修視察の目的の一つでもあるというべきである。なお、帰国後、被告参加議員は、各自海外視察報告書を作成し、市議会議長宛に提出し、その報告書は党派を超えて本件海外研修視察が有意義である旨を述べている。

以上のとおり、本件海外研修視察は、旅行目的、日程、その実施内容からみて、市議会議員の知識、教養を高めるに十分なものであり、公益上の必要性が認められるのであるから、裁量権の逸脱・濫用はなく、違法ではないというべきである。

2 本件負担金の支出手続の適法性について(争点<2>)

本件負担金は六市協議会に対して支出されたものであるが、これは法二三二条の二に定められた補助金の一種である。

そして、公益上の必要性がある補助金の支出は適法であるところ、前記1のとおり、本件負担金は、公益性のある柏市議会議員の海外研修視察の費用に充てるために支出されているのであるから適法である。

3 本件旅費の支出手続の適法性について(争点<3>)

(一) 市議会議員は公選されたものであり、出張について受命ということは考えられず、議員の出張については、委員会で議決し、議長に承認手続をとることによって行われている。

本件海外研修視察については、平成九年五月三〇日に開催された柏市議会の議会運営委員会において本件海外研修視察の実施計画が提案され、審議の上決定されている。

(二) 柏市職員旅費支給規程の定める五日を超える日当の減額は国内出張についてのみ適用され、外国旅行の旅費については、柏市職員旅費支給条例二一条において、国家公務員の例に準じて市長が定めるとしているところ、その定めにおいては日当は全額支給するとされている。

4 日当の二重払について(争点<4>)

原告らは、本件旅費と本件負担金の支出により日当が二重払された旨主張するが、本件負担金は六市協議会に対し支払われているから、条例に基づき個人に対して支給された本件旅費(日当及び支度料)との抵触関係は存在しないし、本件負担金は、本件海外研修視察に参加した市議会議員が団体行動で視察する諸経費を賄うために支出されたものであって、個人に支給される日当はこれに包含されないから、本件旅費により日当を支出したことは日当の二重支給には当たらない。

なお、旅費法は、日当、支度料、宿泊費、交通費を一括して旅費の中から支出しなければならない旨の規定を設けておらず、旅費の一部を負担金で賄うことも認められると解すべきである。

第三当裁判所の判断

一  被告坂巻に対する訴えの適法性について

1  法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」とは、住民訴訟制度が法二四二条一項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実を予防又は是正し、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものと解されることからすると、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し、その反面、およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当しないと解するのが相当である(最高裁昭和六二年四月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻三号二三九頁)。

2  そこで、右1の観点から、被告坂巻が法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当するか否かを検討する。

被告坂巻が、本件海外研修視察が行われた当時、柏市の市議会議長の地位にあったことは当事者間に争いがないところ、法の規定によると、市議会議長は、議会の事務の統理権(法一〇四条)、議会の庶務に関する事務局長等の指揮監督権(法一三八条七項)を有するものの、予算の執行権は普通地方公共団体の長に専属し(法一四九条二号)、また、現金の出納保管等の会計事務は出納長又は収入役の権限とされているから(法一七〇条一項、二項)、一般に市議会議長の統理する事務には予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務は含まれておらず、市議会議長はかかる事務を行う権限を有しないものというほかない。

もっとも、市長は、その権限に属する事務の一部を当該普通地方公共団体の吏員に委任することができ(法一五三条一項)、議会事務局の事務局長その他の職員を市長の補助機関たる事務吏員に併任した上、その者に対し支出命令等予算執行に関する事務の権限を委任することは可能であるが、市議会議長は、その地位に鑑みると、市長においてかかる権限の委任を行い得る相手方としても予定されていないというべきである。

3  右の点について、原告らは、被告坂巻は、市議会議長として、本件海外研修視察の諸経費を予算化し、当番市(本件では鎌ヶ谷市)が提案した実施要領を承認・決定し、その旨を常任委員会や党派代表者会議に報告して承認を得、当番市の議長から請求のあった本件海外研修視察の諸経費を負担金として送金させるなど、本件海外研修視察の実施や諸経費の支出事務に大きな役割を果たしているから、本件において、被告坂巻は、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当すると主張するのであるが、予算の編成権は、地方公共団体の長に専属するものであるし、右実施要領の承認・決定等の行為に被告坂巻がどの程度関わっていたかはともかく、それは、およそ支出命令等の財務会計上の行為とはいい難い。また、本件海外研修視察の諸経費の送金手続に被告坂巻が何らかの形で関わっていたとしても、それは前記の市議会議長の事務統理権ないし議会事務局職員に対する指揮監督権に基づく行為と観念すべきものであって、本来市長に専属するものとされている予算執行に関する事務の権限の行使として行われるべき支出命令等の財務会計上の行為とはその性質を異にするというべきであり、これらを本件負担金の支出行為そのものととらえ、あるいはそれと同視すべきものとすることはできないから、原告らの右主張は理由がない。

4  以上によれば、市議会議長は、本件海外研修視察について公金を支出する権限を何ら有しないものであって、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当しないというべきであるから、市議会議長であった被告坂巻に対する本件訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法というべきである。

したがって、被告坂巻に対する本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、却下を免れない。

二  争点<1>(本件海外研修視察の違法性の有無)について

1  普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し、合理的な必要性があるときはその裁量により議員を海外に派遣することができるが(最高裁昭和五八年(行ツ)第一四九号同六三年三月一〇日第一小法廷判決・裁判集民事一五三号四九一頁)、右のような議会の権能も絶対無制約のものではなく、その裁量を濫用又は逸脱し、合理的な必要性がないにもかかわらず所属議員を海外に派遣したり、研修や視察の名のもとに遊興を主目的とする慰安・観光旅行を実施するなどした場合には、右派遣に要した費用の支出が違法になる場合があるというべきである。

2  そこで、本件海外研修視察が前記1の観点から違法なものといえるか否かについて検討する。なお、原告らは、本件海外研修視察の実質は慰安・観光旅行であるから違法であると主張するところ、右主張の趣旨が、その原因行為ないし市議会による被告参加議員らの派遣決定の違法が財務会計行為に承継されることをいうものであるのか、本件負担金及び本件旅費の支出自体の違法をいうものであるのか明らかではないが、その点についてはひとまずおいて判断を進める。

前記第二の一の事実に加えて証拠(甲一、三、七の1ないし17、八の1、2、九、一〇、一四の1ないし4、一六、三〇の1ないし3、三一、三二の1、2、乙一ないし四、六、七)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 六市協議会は、その前身である県北六市正副議長連絡協議会を名称変更したものであり、東葛飾地方における地域開発、広域行政、関連事業等共通の事項について相互に意見を交換し、関係市の理解を深めるとともに、親睦を図ることを目的として六市の市議会議長及び副議長で構成される団体であり、各事業の運営は、輪番制で当番市の市議会議長が行っていた。

(二) 六市協議会(その前身団体を含む。)の事業の一つに海外研修があったが、その主催による海外研修視察は、昭和六一年度の中華人民共和国への視察を皮切りに、毎年一〇月ころ行われるようになり、平成四年度からはヨーロッパの先進都市を主に視察対象とするようになった。

(三) 六市協議会は、平成九年度の海外研修視察につき、当番市である鎌ヶ谷市の提案に基づき、その目的を福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設の視察とした。その後、当番である鎌ヶ谷市議会議長は、右目的に沿うよう、訪問国としてオーストリアとフランスを選定し、平成八年一一月下旬に、訪問国の視察先、視察目的を複数の旅行業者に伝え、旅行会社と旅行日程、期間、視察先などを折衝して実施要領を作成し、本件海外研修視察を企画・立案した。

(四) 本件海外研修視察に先立ち、当番市は、参加予定の各市議会議員に対し、高齢者福祉施設(ウィーン市福祉局、ウィーン市立医療センター、マルネ市立老人ホーム)とリサイクル関連施設(ウィーン市廃棄物経済局、オーストリア・リサイクリング社)の視察に関して事前に質問事項を提出するよう要請し、それを取りまとめて、関係視察先に送付した。

(五) 本件海外研修視察の参加者は、六市の市議会議員三一名及び随行職員九名の総勢四〇名であったところ、右参加者は、別紙「東葛都市議会連絡協議会欧州視察予定日程表」のとおり所定の視察等を行った。これらのうち、視察目的に直接合致する対象施設は、一〇月二日午前のウィーン市廃棄物経済局と福祉局、同日午後のオーストリア・リサイクリング社、同月三日午前のウィーン市立医療センター、同月七日のマルネ市立老人ホームであるところ、これらの施設においては、参加各議員らは、前記の質問事項に基づき質疑応答を行った。右各施設の見学・視察時間は、計八時間くらいであった。

(六) また、本件海外研修視察の日程には、自然環境保護状況視察、歴史建造物保存状況視察、道路整備状況・街区整備状況視察等として、ウィーンやパリの市内視察も入っており、参加した各市議会議員らは、ウィーンにおいてはウィーンの森、リヒテンシュタイン城、ベルベデーレ宮殿、シェーンブルン宮殿等の見学をし、パリにおいてはベルサイユ宮殿やノートルダム大聖堂等の見学をした。これらの見学・視察時間は計一九時間くらいであった。もっとも、ウィーン市内の視察は、一〇月四日、五日の土、日曜日になされたものである。なお、被告参加議員らは、ウィーンにおいて、自主研修として自由市場を見学するなどした。

(七) 被告参加議員は、帰国後、連名で柏市議会議長宛に本件海外研修視察の報告書を作成・提出したほか、各個人名で報告書を作成した。もっとも、これらの報告書は、市議会議員でも自由に閲覧することはできないし、一般市民はほとんどその内容を知り得ないものである。

3  以上の事実によれば、本件海外研修視察は、福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設を研修視察することを一応の目的としており、これらの行政施策等が一般的に各地方公共団体の市政において重要な問題であることに鑑みれば、一概にその目的が不合理であるとか、不必要であるということはできない。

そして、本件海外研修視察の内容についても、研修視察先としてウィーン福祉局、ウィーン市立医療センター、マルネ市立老人ホーム、ウィーン市廃棄物経済局、オーストリア・リサイクリング社などを選定し、事前に質問事項を検討した上でこれを視察先に送付し、実際の視察時においては質疑応答を行うなど、一応前記目的に沿った内容を伴うものであるということができる。

4  もっとも、本件海外研修視察においては、このような福祉行政等の視察目的に関連する視察先のほか、ウィーンの森やリヒテンシュタイン城などいわゆる観光地と目される場所をも視察しており、しかも、このような視察に充てられた時間は前記の福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設という研修視察目的に直接関連する施設等に対して充てられた時間をかなり上回っていることなどからすると、これらのいわゆる観光地と目される場所の視察の多くが、訪問先国の公的機関が休みである土曜日及び日曜日に行われたことを考慮に入れたとしても、本件海外研修視察が実質的には遊興目的であるとの疑念を生じかさせねない内容のものであり、さらに、六市協議会の海外研修視察が昭和六一年以降、慣例行事のように毎年実施され、しかも、平成四年度以降はヨーロッパの先進都市を毎年訪れていたという経緯などを併せ考えると、本件海外研修視察の内容に相当性が欠ける側面があったことは否定できない。

5  しかしながら、訪問国の歴史、文化、市民生活等に直接触れることが、視察目的である当該訪問国の環境行政等の背景を理解する上で有益となる側面があることも一概に否定できず、前記1のとおり、普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有していること、その権能を適切に発揮するためには、諸外国の歴史、文化、市民生活等を実地に見聞し、幅広い見識と国際的な視野を養い、それを立法政策に反映させる必要性もあながち否定できないことなどを併せ考えると、前記4のように本件海外研修視察の内容に相当性が欠ける面があったことを考慮しても、本件海外研修視察が全体としてみて合理的必要性がないとまでいい切ることはできず、柏市議会に裁量の濫用又は逸脱があったとまでいうことはできないというべきである。

6  したがって、本件海外研修視察の違法性に関する原告らの主張が、その原因行為の違法をいうにせよ、支出自体の違法をいうにせよ、いずれにしても右主張は理由がない。

三  争点<2>(本件負担金の支出手続の違法性)について

1  原告らは、本件海外研修視察は、市議会議員の海外研修視察を企画立案する権限のない任意団体である六市協議会の事業として行われたものであり、このような六市協議会の決定に従ってなされた本件負担金の支出は違法であるなどと主張するのでこの点について検討する。

2  証拠(甲七の1、5、三〇の1ないし3、三一、三二の1、2、乙四、七)及び弁論の全趣旨によれば、本件海外研修視察の決定及び本件負担金の支出の経緯について、以下の事実が認められる。

(一) 六市協議会は、平成八年一一月一二日に開催された臨時会議において、平成九年度の海外研修視察につき、当番市である鎌ヶ谷市が提案した概括的な視察内容(視察目的を福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設とし、実施時期を一〇月初旬、実施期間を九日間、宿泊地は二か所、予算を一人当たり四五万円とすることなど)を了承した。

(二) その後、六市協議会の当番である鎌ヶ谷市議会議長は、訪問国としてオーストリアとフランスを選定し、平成八年一一月下旬に、訪問国の視察先、視察目的を複数の旅行業者に伝え、旅行日程等を折衝した結果、近畿日本ツーリスト株式会社の見積書及び企画書を採用し、旅行日程、期間、視察先などの案をまとめた。

(三) 鎌ヶ谷市議会議長は、前記(二)の案をもとに、「東葛都市議会連絡協議会海外研修実施要領」を作成して、平成九年五月一四日に開催された六市協議会定例会において提案し、承認され、翌一五日に「海外研修の参加申込の受付(期限六月三〇日)、渡航手続等の説明について」と題する文書を六市協議会の各市議会議長宛に発した。

(四) 柏市議会運営委員会は、平成九年五月三〇日、市議会事務局職員から本件海外研修視察が同年一〇月一日から九日まで、オーストリア、フランスの二か国を訪問し、リサイクル、高齢者福祉施策等を中心に視察すること、柏市の参加者については、平成七年一一月二七日に開催された議会運営委員会で承認された七名の議員及び随行者一名の合計八名を予定していることなどの説明を受け、これを了承した。

(五) 柏市議会議長は、平成九年六月二日、平成九年度の海外研修視察への派遣予定者として内定されていた議員七名に対し、市議会事務局長名をもって参加申込みの照会書を発し、同年七月ころ、右照会書に基づき参加申込みをした被告参加議員五名の派遣を承認するとともに(なお、前記内定者のうち二名は参加を辞退した。)、市議会議長は市議会事務局長である被告高野を随行職員として指名した。

(六) その後、平成九年七月一五日付けで、鎌ヶ谷市議会議長から柏市議会議長に対し、本件海外研修視察の参加経費負担金は一人当たり四二万三〇〇〇円であるとして、柏市の参加人数分を鎌ヶ谷市議会事務局宛に送金するよう依頼があり、柏市は、これに応じて参加者六名分の本件負担金を送金した。なお、本件負担金は、柏市の平成九年度の歳出予算に計上されていたところ、右予算は、市議会の平成九年の第一回定例会で可決承認された。

(七) 本件海外研修視察につき、市議会議員の公務出張旅費を柏市議会議員報酬等支給条例、柏市職員旅費支給条例等の関係法令に基づき積算すると、航空運賃(欧州内を含む。)が計一五四万六八五〇円、バス代二万三〇〇〇円、宿泊料一五万八九〇〇円、渡航諸経費三万円、諸経費一万五〇〇〇円、日当六万五〇〇〇円、支度料四万三一二〇円の合計一八八万一八七〇円となり、本件負担金及び本件旅費の一人当たりの額より相当高額になる。

3  以上の事実によれば、本件海外研修視察の日程等は、六市協議会の当番市である鎌ヶ谷市が企画立案したものがそのまま実現されており、市議会は右日程等の企画立案には直接関与していないことが認められる。

しかしながら、前記第二の一(前提となる事実)の2のとおり、六市協議会は法令の規定に基づく団体ではなく、その意味で任意団体ではあるが、その構成員は六市の市議会議長と副議長という法一〇三条一項の定める公的機関であり、かつ、六市協議会の設立の目的が、前記二2(一)のように、六市の地域開発、広域行政、関連事業等に関する共通の事項について相互に意見を交換することにあることなどに照らせば、右市議会議長らは、事実上、各市議会を代表する形で六市協議会に参加しているものとみることができないではなく、このような者で構成される六市協議会が、六市の各議会に関わる公的な事柄を、その最終的な決定権を各市議会に留保しつつ、事実上討議し、一定の案を策定することが許されないとする理由はない。

そして、本件海外研修視察に柏市議会の議員を派遣するか否かについては、前記2(四)のとおり、柏市の議会運営委員会における派遣の決定を経ており、その日程等についても右派遣決定がなされる際の検討議事の内容に含まれているのであるから、本件海外研修視察への被告参加議員らの派遣は、六市協議会の策定した案に従うものではあるが、最終的には柏市議会の自律的な判断に基づくものということができるし、本件負担金を予算に計上し、支出することについても市議会の承認を経ているのであるから、これら一連の手続に市議会議長の権限の濫用・逸脱があったとか、何らかの瑕疵があるということはできない。

したがって、原告らの前記主張は理由がない。

4  また、原告らは、本件負担金の実質は費用弁償であり、旅費として予算化すべきであったにもかかわらず、一般会計予算の議会費のうち第一九節の細節一の「負担金、補助金及び交付金」に予算化し支出することは旅費関係の諸法令を潜脱するもので違法である旨主張するので、この点について検討する。

本件海外研修視察の費用の大半が、旅費という形態を採らず負担金という形で支弁されたのは、本件海外研修視察が六市協議会を構成する各市の市議会議員等の合同研修として企画立案され、旅行会社への支払も全参加者の総費用につき一括してなされるという特殊性から、本来であれば参加者一人一人につき各別に支払われるべき旅費という形態を採らず、総費用を各市の参加人員ごとに按分してその負担額を算出するという趣旨で負担金という形態を採ったものであると解されるところ、右はたしかに便宜的な措置ではあるが、そのような形で実質的に旅費を支弁することが法令上許されないとする理由はない。なお、本件負担金は、六市協議会に対する補助金としての性格を有するものであるが、前記二からすれば、本件海外研修視察は、その内容に相当性が欠ける面があり、費用対効果という観点からは問題があるにしても、一応公益上の必要性に基づくものとみることができるのであるから、右補助金の支出は、法二三二条の二の要件を満たすといえる。

また、法及び法施行令においては、予算科目のうち、「款」「項」は議決科目であるのに対し、「目」「節」は執行科目として長が定めることとされており、また、「款」「項」は原則として科目間の流用が禁止されているのに対し、「目」「節」にはそのような禁止規定が存しないことに鑑みれば、予算における各項内においていかなる目節でこれを予算化し、支出するかは地方公共団体の長の裁量に委ねられていると解すべきであるところ、本件海外研修視察の費用の大半を負担金という形で支弁することにより、その全額を旅費という本来の形で積算し、支出するよりも、旅行の経費が相当程度節減される結果になっていることからすれば、右のような旅費の負担方法が必ずしも不合理なものとはいい難く、この点について右裁量の濫用又は逸脱があるとも認め難い。

したがって、原告らの前記主張は理由がない。

四  争点<3>(本件旅費の支出手続の違法性)について

1  原告らは、本件旅費は、支出の前提である市議会議長の出張命令がないから違法である旨主張するので、この点について検討する。

市議会議員は、その地位の性質上、国内外への出張に際し、市議会議長から出張の命令を受けることが必要であるとは考え難く、右出張については、それが議会の何らかの意思決定に基づくものであり、また、それについて議長の承認があれば足りると解される。

そして、本件海外研修視察においては、前記三2(四)のとおり、平成九年五月三〇日の柏市議会の議会運営委員会において、本件海外研修視察の参加者として内定していた者をこれに派遣することについて了承し、その後、前記三2(五)のとおり、市議会議長が被告参加議員と市議会事務局長の派遣を承認しているのであるから、本件海外研修視察が適法な手続で決定されたことは明らかであり、原告らの右主張は理由がない。

2  原告らは、本件旅費の支出につき、柏市職員旅費支給規程には研修等の目的のために出張をする場合、五日を超えた日以後の日当は一定割合を減じて支給する旨の規定があるのにこれを減じなかった違法がある旨主張するので、この点について検討するに、証拠(甲二六、乙九の1、2)によれば、柏市職員旅費支給規程九条二項には、原告ら主張のような日当減額の規定があるものの、他方、柏市職員旅費支給条例二一条は、職員が外国旅行する場合の旅費は、国家公務員の例に準じて市長が定めると規定しているところ、右市長の定めとして、従前、内規により、定額の八五パーセントが支給されていた外国旅行の日当について、平成五年四月一日以降、定額の全額を支給することと改正されていることが認められるのであるから、右原告らの主張は理由がない。

また、原告らは、被告参加議員に随行した被告高野の旅費につき、上級職員に随行した場合の旅費は当該上級職員の旅費と同額とするとの柏市職員旅費支給規程の規定を適用すべきでないのにこれを適用した違法があると主張するが、市議会事務局職員の旅費支給に関しては、市議会議員を右規程にいう上級職員とみて妨げないから、右主張も理由がない。

五  争点<4>(日当の二重払の有無)について

1  原告らは、本件海外研修視察に関し、本件負担金と本件旅費の双方を支出することは日当を二重に支払うことになる旨主張するので、この点について検討する。

証拠(甲二六)によれば、柏市における旅費の種類は、鉄道賃、船賃、航空賃、車賃(以下、右の四種を「運賃」という。)、日当、宿泊料、食卓料、移転料、着後手当及び扶養親族移転料とされ(柏市職員旅費支給条例六条一項)、日当は、旅行中の日数に応じ一日当たりの定額により支給するものとされているところ(同条六項)、一般に、日当は実費弁償の性質を有する旅費の一種であり、運賃その他旅費において支弁されるものには含まれない旅行中の諸雑費の支払に充てるための実費弁償として支給されるものであるとされているから、柏市における日当は、右の運賃、宿泊料、食卓料等に支弁されるもの以外の諸雑費に関する費用に充てるために支給するものということができる。

ところで、前記第二の一(前提となる事実)の3のとおり、本件負担金の内訳は、研修費と研修諸雑費であり、右研修費は往復の国際航空運賃、各国国内経費(ヨーロッパ内交通費、宿泊費、食費、視察費用)、渡航諸経費を含むものであり、右の国際航空運賃は運賃として、宿泊費は宿泊料として、食費は食卓料として支給されるものであるから、これと日当との抵触は生じないのであるが、視察費用や渡航諸経費については、その具体的な内訳は証拠上明らかではなく、その一部に日当から支給されるべきものが実質的に含まれている可能性は否定できない。

しかしながら、本件負担金は、被告参加議員に対してではなく、六市協議会に支払われているものであるから、形式的にいえば、両者の重複、抵触は存在しないというべきであるし、実質的にみても、本件負担金は六市の参加議員らの本件海外研修視察の全体の諸費用を単純に各市の参加人数で按分しただけのものであり、右諸費用のうちのいくらが被告参加議員らの日当から支弁すべき性質のものであるかを個別的に特定することは不可能である上、本件負担金に含まれる諸雑費以外に各参加者が個別に諸雑費を自弁する可能性も十分あり得ること、なお、前記三2(七)のとおり、本件負担金による旅行経費の支弁は、その全額を旅費として積算し、支給するより相当程度低廉なものとなっていることなどからすれば、本件負担金とは別に、旅費として、定額の日当を支払ったとしても、それが直ちに日当の二重払に当たるということはできない。

したがって、原告らの右主張は理由がない。

六  まとめ

以上のとおり、本件負担金及び本件旅費の支出の違法をいう原告らの主張はいずれも理由がなく、その他右支出を違法とすべき事由も見当たらないから、原告らの法二四二条の二第一項四号に基づく代位請求は理由がない。

第四結論

よって、原告らの請求のうち、被告坂巻に対する請求は不適法であるから、これを却下し、その余の被告に対する請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 裁判官 澁谷勝海)

別紙

選定者目録

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鈴木重雄

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